建設業の原価管理

建設業はなぜ利益があがりにくいのか?

「BtoB企業の収益改善ドクター」 中小企業診断士の牧野雄一郎です!

私がコンサルティングしている中でも特に建設業はどの会社さまも苦労しています。なかなか苦しい状況の支援であるケースが多く、私も建設業の支援の話があると、一瞬構えてしまう感じです(汗)。

で建設業は全体的に利益が上がりにくい業種なのです。理由はいくつかありますが、その建設業をどのように利益を出していくべきか、ご紹介したいと思います!

いつも高水準な建設業の廃業件数

いきなり厳しい話からで恐縮ですが、建設業は廃業件数が常に高い業種です。以下、中小企業白書の「業種別休廃業件数推移」です。建設業、高いですね・・・

決められた工事基準と相見積もりが利益を落とす

さて、まず始めに建設業が利益の低い理由です。これは「厳格な工事基準」と、「相見積もり常態化」が主因です。

建設業は工事の基準が施主によって概ね決められています。そのため請け負う側はあまり自由度がありません。工事内容によりますが、基本的にビル建設などは国交省が標準歩掛かりという工程基準を定めているため詳細な原価構成を元にした価格交渉が行われています。また、そのように差別化が少ないため基本的に発注側は相見積もりを行うのが常態化しています。

発注側にとってみれば明細によるコスト交渉ができ、他社との比較も行いやすいためよほどの技術的高度な工事でない限り価格競争をさせて発注価格を下げやすい環境と言えます。受注側にしても、工事の内容は明確に示されるため価格競争に陥りがちなこと。これが建設業が平均的に利益を上げにくい構造の本質要因です。

原材料や人件費も上昇傾向

また、原価の大半を占める原材料価格や人件費も上昇傾向となり、利益をさらに圧迫しています。数年前から法人事業所は社会保険への加入が義務づけられました。そのため社会保険費用が大幅に増えている環境も企業の収益余力を奪っています。
建設業が利益率の低い3要因

たとえ3人の会社でも必要な「原価管理」

長年厳しい価格競争にさらされてきた建設業では多くの会社が独自の原価計算基準を持っています。しかし私が現場に入りその原価計算基準をみると、会社に利益を残すための計算方法には少し足りないところがあります。私が収益改善ドクターとしてメスを入れるのはその部分です。

原価管理と言うと少し難しいように感じられるかもしれませんが、その工事にどれぐらいの費用(外注費、材料費、人件費)がかかったのかということを明らかにするのが原価計算です。さらに売上との差を見て利益と言うものをしっかり確保していくのが収益管理の大原則です。これはどんな人数の少ない建設業でも当てはまります。3人以下の会社でも当然に行うべき事ですし、充分取り組める内容です。

原価管理で最も頭を悩ませる「人件費」と「管理費」

私が原価管理のコンサルティングを行うとき、全ての企業さんが口を揃えて言うのが「人件費の計算方法」と「管理費の計算方法」がわからないということです。

ここでは一番簡単なやり方をご紹介します。

原価管理の基礎

原価管理は基本的に「総原価」を計算します。つまり、その仕事に掛かる総費用を把握するのです。総費用というと何が思い浮かびますか?まず人件費、材料費、外注費といった当然の費目がありますね。さらに交通費、車輌費もかかります。

会社を運営していくにあたり、家賃、諸経費、車の保険、修繕費、なども必要でしょう。人件費には会社負担分の社会保険料も必要ですね。考えると色々な項目が必要になります。

でも原価計算はなるべくシンプルに考えなければいけません。原価を計算して見積を作成します。あまり複雑な原価計算だと見積の作成に時間が掛かってミスも多くなりますし、根拠の説明が難しくなります。

一般的には「材料費+外注費+労務費+管理費」と言った構成になっているかと思います。

ちなみに原価計算をして何をするかというと、収益を最終的にはコントロールしたいわけです。案件の収益は「売価—原価」です。売価はコントロールしにくい時代です。だから原価をコントロールして収益(=利益)を上げるのが目的です。

レッツ・チャレンジ!(死語) 建設業の原価管理

  • ポイント1:労務費の計算は1時間5000円と決めてしまう。
  • ポイント2:監督業務にも適用する1時間5000円
  • ポイント3:管理費は原価計算の項目からなくしてしまう

順番に説明します!

建設業で労務費を出す際によく行われていることは給料の1日換算値(いわゆる個人の日給)です。1年間で支給額が300万円の人に対して年間労働日数が300時間なら1日あたり1万円という理屈です。しかしこれは簡単な計算に思えますが、ちょっと考えると、以下3つの問題があることに気づきます。

一つ目は人件費と言っても社会保険の会社負担分や交通費、退職金手当などを含めるのか、基準が定まらないという問題。

二つ目に毎年給料が皆変わりますし労働日数も変わることによる計算しなおしの問題。

そして三つ目が給料を元に計算すると原価表に各メンバーの給料が暗示されてしまう問題です。

どれもしっかり考えると微妙ですよね〜

そこで私が提案しているのが1時間あたりの労務費計算を5000円/時に固定してしまう案です。若手が働いてもベテランが働いても1時間の労務費を5000円と計上します。なぜ5000円/時かというと、これが中小企業が目指す水準だからです。これは中小企業の「生産性」に基づいて決めています。その延長線で1日8時間なら40,000円となります。私がコンサルティングしている建設業では1日当たり18000円~25000円くらいで計算している企業が多いので、少し高めという印象ではないでしょうか?

 

で、途中に出てきた「生産性」。これはとはどれだけ効率よく収益を上げるかという概念です。※生産性については別の記事にて詳しくご紹介いたします。

生産性の定義

中小企業は5000円/時の生産性を目指せ

なぜ1時間5000円の生産性が大切かというと、これが世間より少し上の給料の原資となるからです。生産性が上がらなければそれ以上の給料を払うことはできません。会社が運営できるかは世間相場以上の給料を払い労働力を確保し続けなければいけません。そのために生産性を上げることは経営改善の第一歩なのです。

 

中小企業の生産性は全産業で平均3000円/時と言われています(ちなみに大企業はいくらだと思いますか?ちょうど2倍の6000円だそうです)。「なんだ5000円を目指すなんて相当高い目標じゃ無いか!」と思われたかも知れません。

 

でもちょっとまってください。3000円/時というのは全従業員の平均です。特に経理、総務など営業上の付加価値を生まない人の労働時間も分母に含まれているのです。さらにこの付加価値には既に家賃やその他経費はすべて引かれて計算されているのです。だから現場に出ている社員からすれば5000円/時くらい稼げないと世間並みの付加価値を上げられないのです。

 

ですので私が指導するときに、中小企業は1時間あたり生産性を5,000円を目標にして原価計算をするように伝えます。

正しい原価計算

1日働けば8時間で4万円を請求する

私が5000円/時という数字にこだわるには理由があります。何よりこれはは覚えやすい!計算もしやすい!だから感覚的にもすぐに納得して取り入れられます。たとえば工事の見積で1日(8時間)の作業でしたら5000x8=40000円を人件費として計上します。現場の人も覚えやすいですよね。「自分が1時間に5000円稼がなければいけない」というのは。

 

そしてポイントは現場だけで無く、監督業務にもこの時間単価を適用する点です。たとえば1つの現場に3時間チェックに行くのでしたら5000x3H=15000円発生します。

 

ではなぜベテランも若手も同じ生産性で計算するのでしょうか?現実には経験によって生産性は違います。でも生産性とは会社全体で稼ぐものです。そこで得た粗利(付加価値)を社員の出来具合に応じて配分しているのです。だから原価計算するときは誰もが同じ時間あたり5000円と決めてしまいます。

これえ管理費の計算が不要になる

既に気づいた方がいらっしゃるかも知れませんが、このように現場に行くスタッフは監督も現場も全て1時間5000円で計算することで、管理費を計上する必要がなくなります。管理上の人件費はもとより、家賃や固定的な経費もすべて込みになります。

 

大半の会社の見積書には「管理費」という項目で、10〜30%の費用が原価に対してアドオンされています。管理費は本来現場に行かない「経理スタッフ」「事務スタッフ」「家賃」「車輌費」といったことのために必要な考え方です。

 

しかし先ほどの生産性5000円にはこれらが全て含まれていますので面倒な管理費を計算する必要がありません。一律XX%という計算は毎年調整が必要ですし、説明・納得することが難しい数値です。

生産性5000円の根拠

見積書はシンプルに

これにより見積書は次のように変化します。

(Before)(材料費+外注費+労働日数x人工単価)x管理費

(After) 材料費+外注費+労働時間x5000円

どうする簡単な原価計算基準

外注費は生産性で考えない

建設業の慣習として実質グループの外注がありますよね。

企業または、個人事業主(一人親方)である場合。いずれにせよ支払は外注費です。もちろん彼らを管理することは大事ですが、無制限に費用を払うわけにはいきません。しっかりと事前に工事の段取りを示し、定められた日数で工事を終えるようよく相談しましょう。この外注メンバーには5000円/時の生産性は適用しません。見積上もあくまでも外注費ですし、支払も経費です。

実行予算と実績の比較のためには日々の時間管理を。

原価管理は見積時にだけ使うものではありません。建設業では見積時の予算を「実行予算」と言います。実際には工事が終わったときに「実績」を捉えて予算通り原価が納まったのかを検証しなければいけません。そのためには日々の時間管理を行う必要があります。

 

これは各案件にかかった時間の集計が必要です。全社員がこれを1年間かけて集計していけば一人当たりあるいは1時間あたりの形生産高が分かることになります。平均して1時間あたり5,000円以上の付加価値生産高が確保できていない場合は充分な収益を上げられていないといえます。それはすなわち従業員に充分な給料を払い続けることができない状態で、長期的には会社のすいたを意味します。

 

何より改善をしつづける

もちろん実行予算どおりに行かないこともあるはず。でもそこでその「原因分析」を行い、稼げなかった理由を次のアクションにつなげることが大切です。図のような原価管理のサイクルが会社の中でよく回すことが大切です。

 

さらに稼げていないげていない案件は以下の3つの手段をとります。

  1. その価格で利益が出るようにコストダウンする
  2. 顧客に対して次回以降値上げを要請する
  3. その案件・分野・顧客からの仕事を受けない(撤退する)

原価管理のサイクル

当然、言うは易く行うは難し。。。

いやな仕事は受けない、儲かってなければ値上げする、「言われなくてもわかってるわ!そもそも そんなことできるかい!」と怒号が飛びそうですが、、、

このサイクルが実現しない原因は「時間の正確な把握」ができないから

落ち着いて聞いて下さい。残念ながらこのサイクルを真剣に考えて実行されている会社さんは殆どありません。なぜでしょうか??頭で分かっていてもサイクルを回せない原因

 

それは時間を正確に記録していないからなのです。「あなたの会社で社員それぞれが1年間、どの案件に何時間携わったか、正確に集計していますか?」この点について正確に集計している企業は皆無です。当然実績が分からなければ改善点もわからない。そして対するアクションも次回の見積への反映もできないのです。

原価管理サイクルの危機

案件の時間管理にはWattaを活用

とはいえ案件ごとに毎日時間を記録していくのは大変なことです。零細企業の案件生産性管理のために開発されたのが私たちのWatta(ワッタ)です。Wattaは案件ごとの売上・経費を登録しておくとそれに紐付けて時間を自動的に集計することができます。

 

毎日の案件時間を登録するのは僅か1分。これを継続していくだけで案件別の収益、さらには仕事の分野別、顧客別の収益と言うことも簡単に把握できるようになります。会社として何が儲かっているのか何が儲かっていないのかが一目でわかるようになっています。

 

10名以下の零細企業を対象としていますのでお気軽にご相談ください。